診察室で「薬はどうしますか」と聞かれると、急に答えに詰まりますよね。インフルエンザの薬は、どの子にも必須というものではありません。ただ、日本小児科学会は1〜5歳の幼児と、持病で重症化しやすい子、呼吸器の症状が強い子には、使うことを勧めています。
どの子に勧めるかは、学会が2026年10月26日付で出した2026/27シーズンの指針にあります。候補の薬は年齢で変わるので、子どもの年齢と体重、熱の出た時刻が手元にあると、診察室で話を進めやすくなります。使うかどうかと、どの薬にするかは、医師と相談して決めるものです。
必須ではないけれど、勧められている子がいる
指針の治療対象の項には、「多くは自然軽快する疾患でもあり、抗インフルエンザ薬の投与は必須ではない」とあります。厚生労働省の今季のQ&Aも、多くの場合は4〜5日ほど熱などが続いたあと自然に軽くなると説明します。
ただ、「必須ではない」と「要らない」は同じ意味ではありません。
同じ項で投与が「推奨される」子は、次の3つです。
- 幼児(指針の表では1歳から5歳)
- 基礎疾患があり、インフルエンザの重症化リスクが高い子
- 呼吸器の症状が強い子
基礎疾患のない子でも、症状が出てから48時間以内に診断されたら、各医師の判断で投与を考慮するとあります。6歳以上で持病がなく、呼吸器の症状も強くない子は、ここに当たります。
では、使うと何が違うのでしょうか。Q&Aによると、発症から48時間以内に使い始めると、熱の出る期間はふつう1〜2日短くなり、鼻やのどから出るウイルスの量も減ります。重症化を防ぐ効果については、高齢の人や免疫不全の人、小児など重症化しやすい人にはあり、そのほかの人では限定的との説明でした。
1歳未満の赤ちゃんはどう読めばよいのでしょう。治療対象の文に「乳児」の語はなく、推奨かどうかは文からは読めません。薬を使う場合の表には1歳未満の行があり、厚生労働省のQ&Aは、乳幼児がかかると重症化や合併症が問題になるとしています。生後3か月未満で38℃以上の熱なら、消防庁の目安では薬の話より先に「できるだけ早めに受診」で、2時間がめやすです。
48時間は、夜中に急ぐ合図とは別もの
薬の話でよく出る48時間は、指針では「発症後48時間以内の使用が原則」という文です。火曜の夜10時に熱が出たなら、木曜の夜10時までが一つの区切り。Q&Aも、48時間を過ぎて使い始めると十分な効果は期待できないとしています。例外もあり、重症化のリスクが高く症状が長引く場合は、過ぎていても投与を考慮すると指針にあります。48時間を過ぎたから受診しなくてよい、という意味でもありません。具合が悪ければ、受診の目安は同じです。
夜中に熱に気づくと、この数字に焦るかもしれません。でも、今夜のうちに受診を急ぐかどうかの目安は、48時間ではなく子どもの様子です。声や顔色、呼吸、水分のとり方で急ぐ度合いを見る目安は、子どもの発熱、夜や休日に受診する?で読めます。呼びかけに反応しない、顔色や唇の色が悪いといったときは、消防庁の目安では「いますぐ救急車」です。迷ったら医療機関か、子ども医療電話相談(#8000)へ。
学会の表は、年齢でこう分かれる
飲み薬は、数日続けるオセルタミビル(タミフル)と、1回で飲み切るバロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)。吸入はザナミビル(リレンザ)と、1回で終わるラニナミビル(イナビル)です。点滴はペラミビル(ラピアクタ)。
学会の表を年齢と薬の形で読み直し、使うかどうかの見方と受診前のメモを添えた図作成: 編集部 / 出典: 日本小児科学会
オセルタミビルの「推奨」と、ペラミビルの「ほかの4剤の使用が困難な時に考慮する」は、どの年齢でも変わりません。1年齢で変わる2つの形は、次のとおりです。
| 年齢 |
1回で飲み切る薬 |
吸入の薬 |
| 1歳未満 |
積極的には推奨しない。B型は考慮される |
ザナミビルは推奨しない(吸入困難) |
| 1〜5歳 |
積極的には推奨しない。B型は考慮される |
ザナミビルは多くの場合吸入困難 |
| 6〜11歳 |
A型には慎重に投与する。B型には使用を提案する |
吸入できる場合に限り推奨 |
| 12歳以上 |
A型もB型も他剤と同様に推奨。B型は他剤より優位 |
推奨 |
| 呼吸器の症状が強い、呼吸器の病気がある |
重症例はエビデンスが不足 |
要注意。重症例はエビデンスが不足 |
5歳以下のラニナミビルは、機器で霧にして吸う懸濁液なら吸入粉末を吸えない乳幼児にも投与できます。表の言葉は「推奨については本文参照」で、注にあるのは投与できる「メリットはある」までです。
たとえば4歳だと、表の言葉はオセルタミビルが「推奨」、1回で飲み切る薬は「積極的には推奨しない」で、B型なら「考慮される」です。8歳でB型と診断されたなら同じ薬が「使用を提案」に変わり、吸えるなら吸入も候補に入ります。
1回で終わる吸入について、指針は「確実な吸入が求められる」とし、小児では医療従事者や保護者の確認も必要としました。喘息など呼吸器の病気がある子には慎重に、吸入の粉薬では乳製品のアレルギーにも注意を、という記載もあります。
表には「個々の患者への適用にあたっては本文を参照すること」と添えてあり、家で薬を選ぶためのものではありません。
1回で飲み切る顆粒を、学会はどう見ているか
数日続ける薬を嫌がる子に飲ませる日々は、確かに骨が折れます。1回で済む薬に気持ちが動くのも自然なことでしょう。
体重20kg未満の子に使える顆粒は、2025年9月に追加承認され、11月に発売されました。それでも指針は、5歳以下には「積極的な使用を推奨しない」とし、B型については「考慮される」という扱いです。効き目が足りないという理由ではありません。指針は12歳未満でも、国内外で概ねほかの薬と同程度以上の効果と安全性が報告されているとしています。気にしているのは、薬が効きにくくなった「低感受性」のウイルスを出す期間が長引く可能性で、こうしたウイルスが服用中に見つかる割合は年齢が低いほど高くなります。オセルタミビルでも、1〜5歳の治療中に高い割合で見つかったとの報告があります。
国内の小児を対象にした2つの大規模研究では、こうしたウイルスでも治るまでの期間の延びは認められませんでした。国内全体の調査で見つかる割合も、2023/24シーズン以降は1%以下です。ただ、0〜5歳への使用が限られていた時期のデータで、顆粒で使う機会が増える見込みなので、学会は0〜5歳でこうしたウイルスが出ないか十分に注意するよう求めています。
年齢のほかに、体重の目安もあります。薬の公式の説明書にあたる電子添文では、体重20kg未満の子について、ほかの薬の使用を考慮したうえで必要性を「特に慎重に検討すること」とあります。6歳でも20kgに届かない子なら、これに当たります。2
それでも「1回で飲み切る薬はどうですか」と聞いてかまいません。うちの子の場合はどうなのか、理由を尋ねるのは自然なことです。6〜11歳なら型で扱いが変わるため、「A型ですか、B型ですか」も一緒に聞くと話が早くなります。吸入できる子なら、1回で終わる形としてラニナミビルも表に入っています。
きょうだいの予防に、薬は使えるのか
上の子がかかった夜、下の子にも何か、と考えたくなりますよね。指針の考え方は「あくまでもワクチン接種やマスク着用・手洗いなどの対策が基本」です。指針で予防投与が考慮されるのは、病院内の集団発生や、重症化リスクのある基礎疾患の人がうつる機会をもった状況「においてのみ」で、元気なきょうだいはこの中に入っていません。
家庭に当てはめると、相談の場面は持病のある家族がいるときが中心です。オセルタミビルの電子添文も、予防は原則として、発症した人の同居家族のうち、65歳以上の人や、慢性の呼吸器や心臓の病気、糖尿病などの代謝性疾患、腎機能障害がある人が対象です。持病のあるきょうだいや家族がいるときは、かかった子の受診の際に伝えるか、かかりつけ医に早めに電話すると話が進みます。電子添文では、予防は接触から2日以内に始めるものとされています。
赤ちゃんと体重の軽い子は、扱いがまた違います。1歳未満では予防としてのオセルタミビルを原則推奨しません。体重20kg未満の子へのバロキサビルの予防投与は国内で承認されておらず、20kg以上でも、学会はほかの薬が効きにくいウイルスが疑われる状況に限るとしています。費用も違います。オセルタミビルとバロキサビルの電子添文では、健康保険の給付は治療に使った場合だけで、予防は対象外です。
元気なきょうだいには、手洗いとマスク、換気がQ&Aの挙げる対策です。ただ、2歳未満はマスクの着用が勧められていません。ワクチンの回数と時期は子どものインフルエンザ予防接種は何回?で確認できます。
薬を使っても使わなくても、家で見ること
転落などの事故への備えは、薬の有無で変わりません。Q&Aによると、急に走り出す、部屋から飛び出そうとするといった異常行動は、薬を飲んだかどうかや種類にかかわらず報告があります。少なくとも発熱から2日間は、保護者などが転落などの事故を防ぐ対策をとるよう呼びかけ、治療を始めてから少なくとも2日間は子どもを一人にしない配慮も挙げました。鍵のかけ方や寝かせる部屋は、インフルエンザの登園・登校はいつから?で読めます。
薬を使わないと決めた日も、決めっぱなしにしなくて大丈夫です。高熱が続く、呼吸が苦しい、意識状態がおかしいなど具合が悪ければ早めに受診を、というのがQ&Aの呼びかけ。そのときに改めて薬の話もできます。
熱に気づいたら、受診の前に確認すること
スマートフォンのメモに次の6つを残しておくと、診察室で薬の話になったときに答えやすくなります。
「薬はどうしますか」と聞かれて、親だけでその場の答えを出す必要はありません。6つのメモを見せて、「この子なら、先生はどう考えますか」と聞き返す。そこから先は、診察室で一緒に決められます。
今の扱いは2026/27シーズンの指針によるもので、来シーズンは変わることがあります。指針と厚生労働省のQ&A、電子添文は、2026年11月6日に確認しました。