台所から鍋の音が聞こえてきたとき、立ち上がって手伝いに行くか、子どもと遊んでいていいのか。義実家で迷うのは、たいていこんな小さな場面です。
答えは家ごとに違い、外から正解を探しても見つかりません。ただ、迷う場面のほとんどは行く前から想像がつきます。出発の前にパートナーと決めておけば、着いてから一人で考え込まずに済みます。
手土産も手伝いも、家ごとの慣習
手土産を渡す玄関、人が立ち始めた台所、寝つかない夜、熱を出した夜。迷う場面は、この4つにほぼ収まります。どれも、義両親の前では2人で相談しにくい場面です。
手土産の渡し方も、台所に立つかどうかも、「一般的にはこうする」という慣習はあっても決まりではありません。地域によっても家によっても違い、同じ家でも親族が集まる年とそうでない年で変わります。だから、その家の流れなら、その家の子であるパートナーがいちばん詳しいはずです。
決める時期は3つに分けると整理しやすくなります。宿や実家への連絡が要ることは遅くとも2週間前、2人の間の約束は前の晩、家の中の確認は着いた日です。
義実家への帰省で、出発の2週間前・前の晩・着いた日・滞在中に2人で決めることと見る所作成: 編集部 / 出典: 消費者庁・こども家庭庁・厚生労働省・警察庁
実家への連絡はパートナーから入れる形にしておくと、話が早く進みます。親から見れば自分の子どもからの相談なので、泊まる部屋や子どもの食事の希望も伝えやすいはずです。義両親と話しやすいのが自分のほうなら、逆でもかまいません。
泊まり方と日数も、家族で選べる
義実家に泊まるのが当たり前、と決めつけなくてかまいません。たとえば日帰りにする、近くの宿に泊まる、パートナーと子どもが先に行き、あとから合流する。家族の人数や子どもの年齢、実家の広さによって、楽な形は変わります。
宿を使うなら予約が要るので、年末年始は早めに、遅くとも2週間前の区切りで決めます。実家には「夜泣きで起こしたくないから」のように理由を添えて、パートナーから伝えると角が立ちにくいでしょう。
日数を決めるときは、園や学校の休みと仕事納めの日を並べます。年末年始の休園は園によって違い、11〜3月の子育て手続きカレンダー、年齢別の締切と過ぎたらどうなるかでは、12月29日〜1月3日を休みとする私立保育園の例を紹介しました。
駅から実家まで祖父母の車に乗せてもらうなら、チャイルドシートをどうするかも、この時期に決めます。6歳未満の子を乗せて運転するときは、チャイルドシートを使う決まりがあります1。持っていくか、実家で用意してもらうかは、2週間前に話しておけば間に合います。
手土産は、選ぶ人と名前を先に決める
手土産は一般的に、家族で分けやすいお菓子や食べ物を選ぶことが多いものの、金額の目安は家や地域、帰る回数によってまちまちです。いくらくらいが普通なのか、つい相場を探したくなりますが、次の4つで絞るほうが近道です。
- 相手の家で何人が食べるか。親族が集まる家なら、個包装が配りやすい
- 日持ちするか。年末年始はほかの親族の手土産と重なることもある
- 持ち運べるか。子どもを抱いての移動では、重い物や冷蔵の要る物が負担になる
- 食べられない物はないか。祖父母が食事で気をつけていることと、子どもの食物アレルギー
中身より先に決めておきたいのが、だれが選び、だれの名前で渡すかです。親の好みをいちばん知っているのはパートナーなので、選ぶのはパートナー、渡すのは2人から、という分け方もあります。渡すときに「2人からです」と一言添えれば、どちらからの品かで迷うこともありません。
自分の実家にも帰る家庭なら、両家で手土産の中身や金額をそろえるかどうかも、このとき話しておくと後から気になりません。
手伝いの線は2人で引いておく
帰省先の手伝いを、ひとりで引き受ける理由はありません。台所に立つのがその家で育ったパートナーでも、もちろんかまわないのです。
とはいえ、台所は親の持ち場という家もあれば、来た人がみんなで動く家もあります。どちらが正しいということではなく、その家の流れに合わせて、前の晩に次の3つを決めておくと動きやすくなります。
- どこまで手伝うか。配膳と片づけまで、子どもの食事は自分たちで、など
- だれが先に動くか。たとえば、パートナーが先に台所に立ち、手が要るときはパートナーが声をかける
- 疲れたときの合図と、部屋に下がる時刻
パートナーが先に動く形にしておくと、「手伝わないと」と気をもむ時間が減ります。慣れない家で気を張って過ごすと、思っている以上に疲れるもの。子どもを見る役も交代で持てば、どちらかがずっと座ったきり、ということもなくなります。
頼むときの言い方の例は、家事分担の話し合い方 名もなき家事の書き出しと頼み方の文例にもあります。
子どものリズムは起きる時刻で守る
子どもに必要な睡眠は、大人が思うより長いかもしれません。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が紹介する米国睡眠医学会の推奨に、帰省中に気をつけたい所を並べました。
| 年齢 |
睡眠の目安 |
帰省中に気をつけたい所 |
| 1〜2歳 |
11〜14時間 |
昼寝の時刻と場所 |
| 3〜5歳 |
10〜13時間 |
長い昼寝のあとの寝つき |
| 小学生 |
9〜12時間 |
画面を見る時間と寝る部屋 |
帰省のあいだ、この時間をきっちり守るのは難しいものです。親族の集まりで夜が遅くなる日も、移動で昼寝がずれる日もあります。
そこで1つだけ守るなら、起きる時刻です。ガイドは乳幼児期について、朝起きる時間を決め、カーテンを開けて部屋を明るくし、朝食後は外で体を動かすよう勧めています。週末や休日も、普段と同じ時刻に起きて日光を浴びるように、とも。寝るのが遅くなった翌朝も、いつもの時刻に起こしてカーテンを開ける。そうしておくと、家に帰ってからの朝も戻しやすいはずです。
昼寝の考え方は、年齢で変わります。ガイドのQ&Aによると、4〜5歳以降は昼寝の必要性が下がり、昼寝をすると夜の寝つきが悪くなることもあります。新幹線や車で長く眠った日は、夜が少し遅くなると見込んでおけば、寝かしつけで焦らずに済みます。
テレビや動画をどれだけ見るかも、家によってずいぶん違います。ガイドは小中高生のスクリーンタイムを1日2時間以下にする推奨を紹介したうえで、デジタル機器は寝室に持ち込まず、別の部屋に置くよう勧めます。まずはタブレットを寝る部屋に持ち込まないと決めて、祖父母にも伝えておくと守りやすくなります。見る時間は、普段の家のルールを目安に2人で決めておきます。
ごちそうやおやつをどこまで許すかも、家庭で決めてかまいません。ただ、0〜5歳のもちだけは別の理由で気をつけます。
祖父母の家に着いた日にやること
祖父母の家は、大人が暮らしやすいように整えられた家です。小さな子が何日も過ごす前提ではないので、危ない物が手の届く所にあっても不思議はありません。
消費者庁が2017年12月に出した注意喚起では、6歳以下の子どものストーブやヒーターなどによるやけどが医療機関から201件寄せられ、約3分の1にあたる68件(33.8%)が年末年始の1か月に起きていました2。1年の12分の1ほどの時期に、3件に1件が集まっている計算です。寄せられた事例には、「実家のストーブでやけどした」というものもありました。普段暮らしていない家の製品は保護者も危なさに気づきにくい、と消費者庁は指摘します。
薬も見落としやすいものです。消費者庁が2023年10月に配信した注意喚起の例では、祖父母の家に滞在中の3歳の子が、祖父の高血圧と糖尿病の薬を飲んだとみられる例がありました。受診したときに異常はなかったものの、血圧や血糖が下がるおそれがあるため、様子を見るために小児集中治療室に入院しています。こうした大人の薬には、体の小さな子どもが飲むと命に関わる中毒を起こすおそれがあるものも。1メートル以上の高さや扉のある棚でも、踏み台を使って取り出す子がいるため、消費者庁は鍵のかかる場所や取り出しにくい容器を組み合わせるよう呼びかけています。日本中毒情報センターによると、中毒110番には祖父母の家で起きた5歳以下の子どもの誤飲の相談が年に270件ほど寄せられ、2021〜2025年の相談では医薬品が37%で最も多くなっています。
お正月ならではなのが、もちです。こども家庭庁の事故防止ハンドブックでは、0〜5歳の子には、もちや白玉団子のように粘りが強く飲み込みにくい食材を避けるよう勧めています。お雑煮は子どもの分だけもちを入れずによそってもらうよう、先に頼んでおきます。
もちの窒息は、祖父母の世代にも多い事故です。消費者庁の分析によると、65歳以上のもちによる窒息死亡事故は、半数近くが1月です。子どもの分を分けるついでに、祖父母のもちも小さく切っておけば、家族みんなの備えになります。
着いたら、荷物をほどく前にパートナーと家の中を1周します。慣れない家ほど子どもは探検したがるので、先に大人が回っておきたいのです。見るのは、子どもの手が届く高さと、子どもが一人で行けてしまう場所。浴槽に水が残っていないか、窓際のソファなど足場になる物がないか、電気ケトルや包丁が手前に出ていないか。どれも、こども家庭庁が帰省先での工夫として挙げているものです。暖房は、できれば子どもがいる間だけでもエアコンにしてもらい、ストーブを使うなら周りを柵で囲みます。浴室の戸は乳幼児でも開けることがあり、こども家庭庁は補助錠を付けるよう勧めています。
祖父母の中には、家具を動かしたり薬をしまったりするのを「そこまでする?」と感じる人もいるでしょう。こども家庭庁のすすめは、頭ごなしに言わず、実際に事故が起きていることを伝えて、今はこうした対策が勧められていると話してみることです。ここでも、切り出すのは親と話しやすいほうからで十分です。
帰省先で熱が出た夜の調べ方
熱が出たときに受診するかどうかの目安は、子どもの発熱、夜や休日に受診する?迷ったときの目安と相談先に書きました。帰省先で困るのはその先の、どこに電話してどこを探すかです。
#8000は、押すと都道府県の相談窓口に自動でつながる番号です。ところが、帰省先からかけたときの扱いは、県の案内で書き方が分かれます。島根県は「県内のどこからでも」#8000で窓口につながると案内していますが、滋賀県が相談の対象とするのは「県内に在住の15歳以下の子ども」です。出発の前に、帰省先の県の案内で対象と受付時間を見ておけば、夜中に迷わずに済みます。
受付時間は厚生労働省の一覧(2026年5月22日現在)に県ごとに載っていて、休日の欄には年末年始の休みも含まれます。同じ一覧に県ごとの一般の電話番号もあるので、自宅の県と帰省先の県の両方を連絡先に入れておくと、夜に探さずに済みます。
開いている医療機関は厚生労働省の医療情報ネット(ナビイ)で探せます。トップの「急いで探す」に「休日夜間対応医療機関」と「現在診療中の医療機関」があり、帰省先の都道府県と市区町村を選んで絞り込めます。着いた日に近くの医療機関を見つけて「お気に入り病院等」に登録しておけば、熱の夜に一から探さずに済みます。
マイナ保険証か資格確認書と、子どもの医療証も、帰省先へ持っていきます。ただ、子どもの医療費の助成は、住んでいる都道府県の外だと窓口で使えないことがあります。大阪市では、府外の医療機関で受診したときは、あとから払い戻しを申請する扱いです。領収書は捨てずに持ち帰り、手続きは帰ってからお住まいの市区町村で確認します。
帰り道に、来年のメモを残す
帰りの新幹線や車の中は、今年の帰省をふり返るのにちょうどいい時間です。手土産は喜ばれたか、手伝いの線はちょうどよかったか、子どもは何時に眠れたか。スマートフォンのメモに3行残しておけば、来年の2週間前は、その3行から話を始められます。
家に着いた翌朝はいつもの時刻に起こして、カーテンを開けます。それで、今年の帰省はおしまい。
台所から鍋の音が聞こえても、もう慌てて腰を浮かせなくていい。2人で引いた線があれば、立つのも座っているのも、自分で選べます。
事故と相談窓口の情報は2026年11月1日に確認しました。